今朝の東京新聞に『検査・指示 入念なら事故防げた』書類送検16人供述判明という記事が出ました。これについてその裏側をお伝えしたいと思います。
まず、この記事では、群馬県警が業務上過失致死傷容疑で書類送検した20人のうちでボーイング社(4名)を除いた日航と運輸省(当時)の16人の供述の全容が明らかになった、という内容です。それぞれの供述の要旨が載っていました。いずれも「ボーイングに任せた」、「入念に整備すれば事故を防げた」、「責任は感じるがボーイングに任せていた」「国としては道義的責任は感じるが、当該機が元に復元した作業記録を見て合格と判定したのだから何ら責任はない」といった内容です。
また群馬県警察が「飛行機はなぜ飛ぶのか」から勉強して頑張ってやってくれた、だから、不起訴になって群馬県警が一番悔しい思いをしているのではないだろうか、というご遺族の声も併せて載っています。また、弁護士の海渡雄一氏のコメントとして「供述の全容が明らかになったのは画期的だ。当時関係者を不起訴とした際に前橋地検がその不起訴理由の説明会を開いた。捜査資料が保管されたキャビネットをあけたが、実況見分写真などはみられなかった。裁判をすべきだった」という内容で出ていました。
これは、当時の事故原因である「ボーイング社が修理ミスを犯して、それを見逃した日航及び国の責任」という前提で供述したものです。
しかしながら、本当にそれが原因かどうか、実際に前橋地検の検事正は、その点を指摘しています。ここからが、いつも報道されない裏側です。
私の手元にある(これは国会図書館で誰もが見られます)1990年7月17日前橋地検による日航機事故不起訴理由説明会概要〈8.12連絡会)議事録の冊子に、次のように書かれた部分が大変重要です。
これらの言葉は、いつも新聞報道では外され(記者の勉強不足なのか、または意図的に外すのかはわかりませんが)一般に伝わっていないため、ここに明記しておきます。
前橋地検検事正「(略)実績を買われて、昨年9月日航機事故の捜査をすることになった。この時すでにNHKは、検察庁、不起訴か、という報道をし、どうなっているのかと思った。捜査会議を開いたら部下の検事は誰一人この事件は起訴できないといったが、私はいろいろな角度から捜査をした。(略)その結果わかったことは、修理ミスが事故原因かどうか相当疑わしいということだ。事故原因はいろんな説がある。タイ航空機の時には、乗客の耳がキーンとしたという声があがったが、今回はない。圧力隔壁崩壊がいっぺんに起こったかも疑問である。まず、ボーイング社が修理ミスを認めたが、このほうが簡単だからだ。落ちた飛行機だけの原因ならいいが、他の飛行機までに及ぶ他の原因となると、全世界のシェアを占めている飛行機の売れ行きも悪くなり、ボーイング社としては打撃を受けるからだ。そこでいちばん早く修理ミスということにした。事故調査報告書もあいまいと思う。皆さんは我々が本当に大切な資料をもっているように思っているが、資料は事故原因については事故の報告書しかわからない。それを見ても真の事故原因についてはわからない(略)」
この言葉をなぜ誰も報道機関は取り上げないのか。
ここが大変大きな問題です。
群馬県警も捜査の方向性が事故調査報告書をもとにしたために、いくら努力をしても報われなかったのでしょう。というよりも、通常の刑事事件捜査をしていなかった、出来なかったというべきでしょう。
検事正が、事故調査報告書を曖昧と言い、検事正「私たちは事故調の報告書しかわからない。あとの原因はわからない」と語っている事実。
これらを検証せずして、放置してきた33年間。報道とは一体何をすべきか、新聞記者はどこを見るべきか。
誤った方向性ならば、少しずつでも正していくべきです。
そして、それほどまでに証拠がないならば、群馬県警も手元にあるものを精査して再度調査すべきでしょう。
遺族「新たな証拠が出てきたりしても、起訴できるわけですね」
検事正「そうです。」
この言葉もあります。これは当然のことであり、再調査に時効はありません。
他にこの議事録には、修理ミスを前提としているためにリベットのことや修理者不特定の事実、嘱託尋問、日米の法手続きの違いなどにふれています。
しかし、問題の所在はそこではありません。上記の冒頭の部分です。
事故調査報告書以外のことも検討しなければいけないにもかかわらず、放置、または出来なかった、という言い訳がきちんと記録されているということです。
もし、人命を預かる企業が安全を考えることを優先せずして、もうけ主義に走った結果がこれであれば、当然のことながら、ボーイング社と日航は起訴されたでしょう。
証拠不十分で、事故調査報告書があいまいであり、他の原因を無視したから、不起訴となった、と明確に書いてある以上、私はこれが真実であると思います。