「日航123便墜落―疑惑のはじまり 天空の星たちへ(復刻版、河出書房新社)」の親本を書いた2010年から11年間、実に多くの方々とお会いしてきた。頂いた名刺は100枚以上になる。
大学の研究者や弁護士、警察医はもちろん、山下徳夫元運輸大臣や加藤紘一元防衛庁長官といった政治家(元政治家の方々)、ご遺族と群馬県警察医と一緒にお会いした安倍総理夫人、当時の秘書、外務省職員の方々、新聞記者や報道関係者の皆さん、上野村の皆さん、学生の皆さん、弁護士会主催の講演会や佐高信氏の私塾講演会でお会いした皆さん、目撃情報を寄せてくれた方々、イギリス取材でお会いした英国衝突調査航空安全コンサルタントのNTSB委員、BBCキャスター、カーディフ大学の学生たち、そして何よりも墜落原因に疑問を持つご遺族の方々である。
36年前に不起訴となり、誰も刑事責任を取らぬまま放置され続けているこの日航123便墜落事件について、報道は圧力隔壁説以外の説についての追跡取材を避けている。ネットでは、この事件を真剣に取り上げてくれる人も多数いるが、そういう人たちが嫌になるように、無知蒙昧がはびこり、真相を追求する人を攻撃してくる。私は、こういった環境を憂いているご遺族たちの苦悩を知り、「これではいけない。日本の将来を考える上で、歴史を捻じ曲げてはならない。それを明らかにしなければいけないのは、日本航空という会社で誇りを持って働いていた私たちの責務だ」と思った。誰かがやらなければ真実にはたどり着けない、そう信念を持ったのが全てのはじまりである。
お会いした人で印象深かったのは、その昔、子供同士で故人とよく遊んだといういとこや、遺族となってしまった自分のおじさんやおばさんについて語る親戚の方、残された子供たち、故人の親友、職場の友である。特にその後の人生で、様々なことを振り返り、また新たな事実を知って疑問を持つ人たちであった。以前お会いした時は、「親に遠慮していえない」などという複雑な事情があった人たちも今回の裁判のニュースを知り、日航123便墜落の真相を明らかにする会へご連絡いただいた。公表してもかまわないということなので、個人が特定されないように複数の話を混ぜて書かせて頂く。これは特に、今の日本航空社員や執行役員、取締役、元社員たちに読んで頂きたい。
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〇私の脳裏に浮かぶのは幼い頃に一緒に遊んだ記憶です。1985年8月12日、久しぶりに会った姿は昔のかわいらしい姿とはかけ離れ、無残で見る影もなく、恐ろしい記憶でしかありません。それなのに、なぜか、親戚たちはお通夜で万歳三唱をしていました。変だと思った瞬間です。お国のために死んだわけでもなく、万歳三唱の違和感。親戚の大人たちは何を知り、何を隠したのでしょう。生のボイスレコーダーを聞かされたとききました。そこで何を知ったのでしょう。これは、自分たちだけが知ればいい話ではなく、他の遺族にも平等に聞かせるべきです。
〇周知の事実として日航内部では広報を中心とし、ここだけの話としてミサイル説がはびこりました。そして米軍か自衛隊かわからないが、墜落原因を追及すると刺されるぞ、という恐怖心を埋め込まされました。実際に、1985年9月21日の新聞に出ましたが、羽田整備場ラ整ビルにあるメンテナンス・コントロール室(MHV)に所属し、調査役であったH.T.氏(横浜市在住)が、「遺族係となった心労から、死んでお詫びをする」という遺書を残して、果物ナイフで複数刺して亡くなったということは青山さんの本にも書いてありましたね。当時、社内で警察に確認をしたところ、「通常、一回で気絶するため、複数刺すのは自殺ではない、これは他殺だ」とのことでした。これが引き金となって、日航社員の間に恐怖心生まれ、「事実を語れば刺されるぞ」という言葉が出たことは事実です。
でも、36年も前のことで、亡くなったH.T.氏は満洲航空出身者だったことや自衛隊に対する時代的背景もあってのことでした。それを、いまもなお言い続けているとすればバカなことです。私たちが事実を隠し続ける理由は何もありません。JALは倒産時に国から借金を棒引きしてもらったから仕方ない、国という大儀のためだからといったら、それはおごりです。それこそ今回も政治家に裁判関連で頼み込んだらすぐばれます。訴訟報道の後、つい先日、JALが和歌山のワ―ケーションに参画するニュースがNHKに出ましたので、たぶん自民党二階幹事長かもしれませんが、あの権力者のご老体に頼み込み、520人という乗客の命を奪った事実を隠すお願いをしていたなら、それこそコンプラインアンス違反どころではすまない。壁に耳あり障子に目あり。これ以上隠蔽する道理はありません。当時の私たち社員は、会社の仕事に誇りをもっていたのですから、いい加減、隠すのはもうやめましょう。
〇私は遺族として、日本航空の社員にしてもらいました。遺族といえば、なんでもOKでした。簡単に入社出来ました。親戚もOKでした。ただ、入ってみてから能力的についていけない時もありましたし、憧れて一生懸命何度も挑戦してやっとなれたという先輩の情熱など足元におよびもつかないと思いました。でもこれも遺族の特権なのかなあと思っていたところ、久しぶりに学生時代の友人と会い、「よく自分の親を殺した会社の社員になったね。信じられない」と言われて、はっとしました。思えば、私が日本航空に就職してから、片方の親は、事故原因について不満を言わなくなりました。あれだけ日航の悪口を言っていたのに、ピタッとやめたのです。おかしいです。
きっとこれでは死んだ人は報われないだろうなあ。そういう友人と語り合っていて、気づいたのです。それは、「遺族は、必ずしも死んだ人の代弁者ではない」ということです。生きている人は、いつのまにか自分の都合のよいように、記憶を書き換えていくのだなあ、ということです。そして、そんな自分が、ばつがわるいのか、わかりませんが、残ったほうの親や親戚は、そして自分も含めて、いつのまにか、墜落原因を指摘する人を、嫌な人だと思っていました。これもおかしいです。
これは自分の事故後の生き方が、あの日の原点を忘れてさせているということです。亡くなった人の思いを都合よく書き換えているということです。あの事故で亡くなった本人は、なぜ死ななければならなかったのか、が一番知りたいことなのです。私なら当然そう思います。
この「遺族を社員にして、追及されないようにする方法」、これって、お茶を濁させる、つまり、墜落原因の疑問を持たせない、ということが目的だったのだろうと、やっとわかったのでした。担当社員の平身低頭の姿勢は、マニュアル通りだったと、あとからわかりました。
〇今回訴訟を起こしたご遺族の勇気ある行動に深く感動しました。きっと数々の試練を乗り越えるために、そして520人の声を身近に感じるからこそ、最後の望みをかけて、勇気を振り絞ってなさったことでしょう。心から敬服いたします。いかなる圧力にも屈せず、頑張って頂けるよう心からお祈りさせていただきます。
〇8.12連絡会を辞めた遺族です。あれは美谷島事務局長のための私物化の組織としか思えません。会計報告もいまやなし、会費は「寄付」と言われ、都合の悪い情報は会報「おすたか」には書かない、言わない、伝えない。ネットのHPでは、設立時の言葉として、事故原因の究明と書いてありますが、あれは嘘ですか。今回の訴訟関連情報を故意的に省くのはなぜでしょう。今までも、一部のマスコミと仲良しとなり、その周りをお太鼓持ちが囲む。さらに、「私たちはお互いに慰めあっていくだけの会ですから、墜落原因を追及したいならば勝手にどうぞ」という美谷島さんの言葉は胸に突き刺さりました。一体どちらを向いているでしょうか。遺族会を「被災者家族の会」と日航の言いなりで被災者と名乗るからでしょうか。いまや少数しか残っていないにもかかわらず、あたかも遺族の代表のように名乗らないでいただきたいと、ずっと胸の奥で思ってきましたが、私同様の意見をもつ遺族も多くいることがわかりました。美谷島さんの昔の面影は消え去り、逆に墜落原因を追求させないよう圧力をかけるような言動が増え、JAL側とも諸々含めてべったりです。胸に手を当ててよーく考えてみてください。一体、どこが独立している会でしょうか。世間にもマスコミにも、こういう事実を知ってほしいと心底願います。美谷島さん、JALとの関係が激変したのはなぜですか。もしも自分だけが知った事実があるならば、遺族として当然皆さんに明らかにすべきでしょう。8.12連絡会は本筋を間違えています。
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年月は真実を必ずや明らかにする。
全てが分かった時、今までの自分の行動を振り返り、「なぜ死ななければならなかったのか」という墜落原因を知りたい死者に対して、顔向けできるだろうか。
自分がしたことは恥ずべき行為ではなかったのか、自分が社員になったからという保身だったのではなかったのか、あの時誰かのせいにして言い出す勇気が欠落していただけではなかったのか・・・
なによりもこの裁判は、日航が持っている生データを聞かせてほしい、ということであって、私たちはご遺族を応援するのが当たり前であり、これは裁判という法的手段で決めることである。
安易にネット上で、見ず知らずの人間が生データを出せない理由を、レベルの低さに気づかないで書き込むのは勝手だが、コメントを書き込むことこそがおこがましい行為である。
世界的レベルにおいて、「世界最大の単独機死亡事故という520名の生命が奪われたことを考えれば、日航の社員が未来永劫隠すレベルではなく、全ての証拠物を公文書として保管管理し、国民に開示するのが当たり前」だからである。
追記だが、日本航空も、例えば相手の弱みに付け込み、社員の口を借りて真相究明をしようとする相手を罵倒し、物事を金銭で解決しようとする手段や、昔の組合同様のやり方で遺族間を分裂させてお互いに組ませないようにする方法は、もはや無駄であることを理解したほうが良いと考える。こちらの弁護士にお見通しであり、裁判官の心証が悪くなるだけである。
いまや、あの頃の黒電話ではなく、いつでもどこでも録音できる、いつでもどこでも写真が撮れるスマホの時代なのだから。